「認知症は治らない病気なのでは?」「治療が可能であるならば、認知症はどのような治療方法があるのだろう」
この記事では、認知症治療の最新情報について解説。認知症ともの忘れの違いと言った基礎知識を始め、薬剤や手術による治療や非薬物療法まで幅広く理解できます。
※記事中で言及している保険に関して、当社では取り扱いのない商品もあります。
認知症は治療が可能?
認知症はもの忘れとは異なる脳の働きが低下する病気です。以下で、もの忘れと異なる点や治療が困難な認知症と治療が可能な認知症について確認します。
認知症はもの忘れとは異なる病気
認知症とは加齢によるもの忘れとは異なり、何らかの原因で脳細胞が死んだり、脳の働きが悪くなったりといった状態になり発症する病気です。認知症は記憶力や判断力の低下などの症状を引き起こし日常生活に支障をきたします。また、認知症の種類によっては、うつ状態・不安・徘徊・幻覚・妄想といった症状が出ることもあります。
認知症は記憶力の低下によってもの忘れのような症状が引き起こされるため、初期の段階ではもの忘れと見分けることが困難です。もの忘れが記憶の一部を忘れるのに対し、認知症は記憶がすっぽりと抜け落ちたように忘れてしまいます。簡単に言うと、もの忘れが「朝ごはんのメニューを忘れてしまう」のに対し、認知症は「朝ごはんを食べたこと自体を忘れてしまう」のです。また、本人には忘れたという自覚もありません。そのため、早期発見により軽度な段階で治療を始めるためには、周囲の方のサポートもとても重要となります。
アルツハイマー型認知症などの根本療法はまだない
アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭葉変性症といった種類の認知症に対する根本的な治療方法は、まだ確立されていません。この3種類の認知症は、細胞や組織が変質を続けて、死んだり脱落したりする変性疾患に分類されます。脳の細胞が徐々に変質に伴い、認知症も進行していくのです。根本治療はできませんが、病気の進行を抑制する薬はあります。
種類によって認知症は治療が可能
認知症の種類によっては、予防や治療が可能な種類もあります。予防や治療が可能な認知症の種類は以下のとおりです。
- 血管性認知症
- 正常圧水頭症
- 慢性硬膜下血腫
- 甲状腺機能低下症
上記の認知症は、脳外科手術や身体に不足している物質を補充することで治療や改善が可能です。
認知症によるおもな症状
認知症によるおもな症状である認知機能の低下と行動や心理状態の変化について、以下で詳しく解説します。
認知機能の低下
認知機能の低下による具体的な症状として、
- 記憶障害
- 注意障害
- 言語障害
- 見当識障害
- 実行機能障害
が挙げられます。これらの認知症の症状は中核症状と呼ばれます。
記憶障害は、同じ話を繰り返したり、物をしまったことを忘れてしまったりという症状。そもそも物をしまった事自体を忘れてしまうため、盗難と思い込むトラブルに発展することもあります。また、火の消し忘れや薬の飲み忘れといったリスクへの注意も必要です。
注意障害は、物事や周囲に対する注意力や集中力が低下する症状。並行した物事の処理が難しくなり、スムーズな会話のやりとりが行えなくなります。
言語障害は、適切な言葉や単語が出にくくなり、相手の言葉の理解も難しくなる症状です。
見当識障害は、現在の日付・時間・場所などがわからなくなる症状。それにより、徘徊などの周辺症状につながることもあります。
実行機能障害は、物事の計画や順序立てた実行が難しくなる症状。家事や仕事に対する段取りが悪くなるといった影響が考えられます。
行動や心理状態の変化といった周辺症状
行動や心理状態の変化といった認知症による周辺症状は、本人の性格・素質・生活環境によってさまざまです。代表的な周辺症状としては、暴言・暴力・無気力・不安・うつ症状・妄想・徘徊・睡眠障害・幻視・幻聴などが挙げられます。
薬剤や手術による認知症の治療
認知症の治療は、薬・手術・非薬物療法によって行われます。まず、薬や手術による認知症の治療方法について見ていきましょう。
保険適用される抗認知症薬
保険適用される抗認知症薬として、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬があります。この2つの薬は、根本治療が難しい認知症の進行抑制に効果的です。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の中核症状を抑制するとされています。アセチルコリンは、脳の記憶保持・集中・覚醒に作用がある神経伝達物質です。アルツハイマー型認知症になると、このアセチルコリンが少なくなります。そのアセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害し、情報伝達をスムーズにする薬がアセチルコリンエステラーゼ阻害薬です。
NMDA受容体拮抗剤は、過剰な刺激を抑えて神経細胞を保護する薬です。グルタミン酸は興奮性の神経伝達物質で、それを受け取るNMDA受容体が過度に活性化すると神経細胞が傷ついてしまいます。NMDA受容体拮抗剤はNMDA受容体に結合し、過剰な刺激を防ぐことで記憶の情報伝達の機能を整える効果があります。
認知症の治療に使われるその他の薬
行動や心理状態の変化といった周辺症状を軽減するために、さまざまな薬も認知症の治療の一環として使用されます。
認知症の治療に使われる薬の例は以下のとおりです。
- 睡眠導入剤
- 漢方薬
- 抗不安薬、抗精神病薬、抗てんかん薬
これらの薬は、睡眠障害・不安・異常な興奮・幻視など、それぞれの認知症の周辺症状に併せて慎重に処方されます。
手術による認知症の治療
他の病気によって認知症の症状が出ている場合には、手術によって治療を行う場合があります。慢性硬膜下血腫・正常圧水頭症・脳腫瘍といった病気による認知症がその対象です。脳外科手術による根本的な病気の治療により、認知症も回復することが多く見られます。
非薬物療法による認知症の治療
薬を使わない非薬物療法は、認知症の進行や根本的な治療を目的に行うものではありません。ただし、脳の活性化による不安・無気力・うつ症状といった周辺症状に対する大きな効果が期待されています。 以下で代表的な非薬物療法について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
回想法
回想法は昔の記憶を思い出し、人に話したり聞いたりすることで認知機能の向上に効果が期待される非薬物療法。認知症の方は、最近の出来事を思い出すことが苦手です。一方で、若い頃の記憶など昔のできごとは比較的思い出すことができます。回想法は認知機能向上へ効果が期待できるだけでなく、思い出を人に話すことで自信を取り戻したり、心身が活性化につながったりすることもあるのです。回想法には、昔に住んでいた場所の訪問、昔に見た映画を鑑賞するといったことも含まれます。
認知リハビリテーション
認知リハビリテーションは、いわゆる「脳トレ」と呼ばれるゲーム・パズル・計算ドリルなどを使った非薬物療法です。認知機能の維持や回復を目的に、脳の機能を使うと考えられる活動を行います。
認知トレーニング
認知トレーニングは、注意や記憶といった特定の領域に対して特化した課題に取り組み、認知機能の改善に取り組む非薬物療法です。認知トレーニングは、紙やコンピューターを使って行われます。
認知刺激療法
認知刺激療法は、トランプ・音読・計算などの認知症の方が楽しめる活動を行い、脳の全体的な働きの改善を目指す非薬物療法です。
音楽療法
音楽鑑賞や演奏を楽しむことで、自信を取り戻したり、不安が解消されたりといった効果が期待できる非薬物療法です。
園芸療法
園芸療法は、文字通り園芸を行う非薬物療法です。水をやり、土に触れ、草花を愛でることで季節を感じられるため、見当識障害に効果があるとされています。
リアリティ・オリエンテーション
リアリティ・オリエンテーションは、名前・場所・時間・日時・人物などの質問に対して回答する非薬物療法です。季節や月日を把握することで、見当識障害に効果が期待できます。
バリデーション療法
バリデーション療法は話の順序や虚偽ではなく、話の裏側にある感情・背景・理由に寄り添って関わる非薬物療法です。
パーソンセンタードケア
認知症の方の人間性を尊重し、行動・状態・性格・これまでの生活・健康状態・心理的背景・社会的背景といったさまざまな面からの理解を試みる非薬物療法です。認知症の方は、1人の人として尊重されることで、認知症の症状が改善したというケースもあります。
認知症の疑いがある場合の対応
認知症かもしれないと思った場合に、取るべき対応について以下で解説します。
まずはかかりつけ医かもの忘れ外来を受診
認知症の疑いがある場合には、まず普段から利用しているかかりつけ医に相談しましょう。適切な病院や施設の紹介が受けられます。かかりつけ医がいない場合には、加齢によるもの忘れから認知症まで相談にのってくれるもの忘れ外来を利用するとよいでしょう。
認知症は何科を受診すればよいか
認知症の診察を受ける場合には、認知症の診断を行っている脳神経外科・脳神経内科・精神科・心療内科などを受診してください。また、診察を行っている医療機関が見つからない場合には、自宅の近くにある地域包括支援センターに相談するとよいでしょう。
認知症の方に関わる人が治療について理解を深めることが大切
認知症と向き合ってスムーズに治療を行うためには、認知症の方に関わるすべての人がしっかりと認知症について理解することが大切です。認知症に対する過度にネガティブなイメージや間違った知識を持っていると、本人だけでなく家族など周囲の方にも大きな負担となります。根本的な治療が困難な認知症もありますが、薬や非薬物療法によって進行を遅らせることは可能です。また、治療費用に不安を残さないために、将来の認知症介護に備える保険への加入も検討するとよいでしょう。
article