認知症について

認知症は運動で予防できる?おすすめのトレーニング方法をご紹介

高齢化が進む日本では身近な存在になりつつある認知症ですが、運動や食事によって認知症を発症するリスクを低減させることができるのはご存じですか?今回は認知症を予防するためのトレーニング・食事方法について解説します。

認知症は予防できる?

そもそも、認知症を予防することはできるのでしょうか。認知症予防についての考え方と、WHOが推奨する代表的なライフスタイルの改善方法について解説します。

認知症予防についての考え方

「認知症を予防する」というのは、予防によって認知症の発症を遅らせたり、進行をゆるやかにしたりするという考え方であり、「認知症を発症しないようにする」ということではありません。WHOが2019年に発表したガイドラインには、以下のように記載されています。

いくつかの最近の研究によると、不活発なライフスタイル、喫煙、不健康な食事、過剰な飲酒などのライフスタイルに関連する因子が、認知機能低下や認知症と関連することが示されている。(中略)潜在的に修正可能な危険因子が存在するということは、認知機能の低下や認知症発症を遅らせる基本的介入の実施などの公衆衛生的アプローチを通じて、認知症予防が可能であることを意味している。

つまり、認知症は喫煙・不健康な食事・過剰な飲酒などのライフスタイルとの関連が深く、これらを改善することで認知症の発症を遅らせたり、発症後の進行を穏やかにしたりできると考えられています。

WHOが推奨する代表的な項目

WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」では、認知機能の低下や認知症発症を遅らせるために以下のようなアプローチが推奨されています。全12項目の中から、代表的なものを紹介します。

身体活動による介入
身体的な活動と脳の健康には相関関係があり、追跡期間が10年を超える大規模な観察研究では、身体活動をする人はしない人に比べて、認知機能が低下しにくく、認知症・血管性認知症・アルツハイマー型認知症の発症リスクが低いとされています。
禁煙による介入
喫煙が認知機能障害や認知症の危険因子であることは、数々の観察研究によって明らかになっています。中年期の喫煙は、後期認知症のリスクが高いこととも相関しており、禁煙によって認知機能の低下・認知症のリスクを低減できる可能性があります。
栄養的介入
健康的な食生活も認知機能の低下を予防する可能性があると考えられています。食事と認知機能、または全身への関連について、最も広く研究されたのは地中海食(イタリア・スペイン・ギリシアなどの果物・野菜・魚を多く摂る食習慣)と呼ばれる食事方法です。この観察研究によると、地中海食を順守した人とそうでなかった人を比べると、地中海食を順守した人の方が軽度認知障害やアルツハイマー病のリスクが低くなったと結論づけています。
アルコール使用障害への介入
アルコールの過剰摂取は、多くの国で問題となっており、認知症を含む200以上の疾患の直接的な原因であるといわれています。禁酒・減酒によって認知症・認知機能低下のリスクだけではなく、他の疾患に対するリスクも低減が期待できるでしょう。
認知的介入
認知活動レベルが高い人は、そうでない人と比べると軽度認知障害・アルツハイマー病と診断されるリスクが低い可能性があるという報告があります。認知活動は認知刺激・認知トレーニングによって増加させることができるとされており、認知症・認知機能低下のリスクを低減させるために認知トレーニングが推奨されています。

参照:WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf

認知症予防におすすめの運動・筋力トレーニング

定期的な運動習慣は心肺機能・脳機能を高め、心疾患・がん・糖尿病予防に効果があるといわれています。以下では、認知症予防にも効果的な運動・筋力トレーニングについて解説します。

有酸素運動

1日30分、ウォーキング・サイクリング・水中歩行などの運動を週3~5回程度行うとよいでしょう。65歳以上の方は、10分以上の運動×3回でも構いません。運動しながら頭を使うと、認知機能維持・低下予防にも効果があるといわれていますので、より認知症予防に効果を期待する場合にはおすすめです。忙しくて運動する時間がないという方も、「今より10分多く身体を動かす」ことを意識してみましょう。「今より10分多く」を意識して日常に運動習慣を取り入れ、慣れてきたらジョギングやランニングに挑戦してみるなど、運動時間を伸ばしていくとよいでしょう。

筋力トレーニング

有酸素運動に合わせて、筋力トレーニングを行うとより効果的です。筋力トレーニングは筋力を高め、心機能にもよい影響を与えます。胸・背中・下肢の大きな筋肉を鍛えることを意識して取り組みましょう。一つの部位につき、8~12回を2~4セット、週に2~3回行うのが目安です。自宅でトレーニングする場合は、腕立て伏せ・腹筋背筋運動・ダンベルプレスなどが手軽に始められるのでおすすめです。ジムに通ってトレーニングできる方は、チェストプレス・ラットプルダウン・レッグプレスなどのマシンを使ってみましょう。

参照:厚生労働省「標準的な運動プログラム(健康増進施設)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index_00003.html

認知症予防に効果的な食事や生活習慣のポイント

認知症予防に効果的な食習慣や生活習慣のポイントについて解説します。

バランスのよい食生活

WHOは認知症リスク低下に地中海食を推奨しています。

地中海食の特徴
・果物や野菜を豊富に使用する。
・乳製品や肉よりも魚を多く使う。
・オリーブオイル、ナッツ、豆類、全粒粉など未精製の穀物をよく使う。
・食事と一緒に適量の赤ワインを飲む

食文化の異なる日本人が地中海食をそのまま取り入れるのは難しいですが、「野菜を豊富に使用する」「肉よりも魚を多く」「未精製の穀物をよく使う」というのは日本食でも応用できそうな内容ですね。主食(米・麺類など)に偏らず、主菜・副菜をバランスよく摂取することを心掛けましょう。

禁煙・禁酒する

WHOが推奨する、認知症リスク低下の代表的な項目に「禁煙による介入」「アルコール使用障害への介入」があるように、喫煙・飲酒は認知症の危険因子とされています。タバコに含まれるニコチンには血管収縮作用があり、脳の血流が阻害されることで脳細胞が死滅し、認知症になるリスクが増加します。また、アルコールも大量に摂取することで脳を委縮させるといわれています。このように、喫煙・飲酒には脳に悪影響を及ぼす作用があるため、認知症リスクを低下させたい場合はできる限り禁煙・禁酒をすることをおすすめします。

参照:WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf

生活習慣病を予防する

認知症にはいくつかの種類がありますが、その中でも特に多い割合を占めるのが「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」です。これらの認知症は糖尿病・高血圧・脳卒中など生活習慣病との関わりが深く、将来の認知症リスクを低下させるためには、生活習慣病を予防することも大切といえるでしょう。

関連記事:認知症のおもな4つの種類・特徴・割合について解説
https://www.asahi-life.co.jp/nethoken/howto/ninchisyo/types-of-dementia.html

まとめ

認知症の発症そのものを完全に防ぐことは、現代の医療では難しいと考えられています。ですが、日頃の生活習慣を見直すことで、認知機能の低下・認知症発症のリスクを低減させることは可能です。今回ご紹介した、運動・食事・生活習慣の改善をぜひ参考にしてみてください。

監修者

東京医科大学形成外科
医師 興津 寛

熊本大学医学部卒業。中国に留学し、漢方医学の研修を受ける。専門領域は内科、皮膚科、整形外科、形成外科

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