認知症について

認知症の方との接し方のポイントは?よくあるシーン別に解説

ご家族や身近な方が認知症になり、上手くコミュニケーションが取れずにイライラしてしまったという経験はありませんか?今回は認知症の方と上手に接するためのポイントについて解説します。

認知症の方と接する際の基本的なコミュニケーション

認知症の方と接する際に覚えておきたいコミュニケーションの基本について解説します。

コミュニケーションの基本

認知症の方とのコミュニケーションの基本となるのは以下の3つのポイントです。

ゆっくり大きな声で耳元に話す
高齢者の方は特に、老化によって聴力が衰えている可能性があります。聞こえづらくなっていることが原因で返答ができないだけにもかかわらず、言葉が理解できなくなっていると思い込んでしまうと、よりコミュニケーションが取りづらくなっていきます。できるかぎり耳元でゆっくりと大きな声で話すようにしましょう。また、高齢になるとほとんどの方が聴力に左右差があるためどちらが聞こえやすいか確認しましょう。
短く・わかりやすい言葉で話す
聴力の衰えや認知力の低下によって、長文が聞き取りづらかったり、十分に理解できなかったりする可能性があります。できるだけで、短くわかりやすい言葉を使って話すように意識しましょう。理解力が低下している方には「はい」か「いいえ」など答えやすいように理解度に応じて質問を工夫しましょう。
目を見て話をする
本人に「自分に話をしている」と自覚してもらうために、話をするときは目を見て話しをするようにしましょう。また話し始める前に、名前を呼ぶようにするとより効果的です。

コミュニケーションのポイント

認知症の方とのコミュニケーションをスムーズにするために以下の3つのポイントを押さえましょう。

敬意を持って接する
認知症の方と接するとき、つい「なぜこの程度のことができないの?」といった感情を持ってしまうこともあるでしょう。ただし、このような感情を言葉や態度に出すと尊厳を傷つけてしまい、関係が悪化しコミュニケーションが取りづらくなることもあります。ストレスを感じることがあっても、それをぶつけるのではなく、自分の感情はそっとしまって敬意をもって丁寧な言葉・態度で接するように意識しましょう。
相手の表情に注目して
言葉でのコミュニケーションが上手く取れない場合でも、表情から感情を読み取れることがよくあります。認知症の方と話をする際には相手の表情をしっかり見て、今どう感じているかを理解するように意識してみてください。また視覚から得られる表情以外にも手の握り具合や声のトーンなども感情を察知できるので五感をフル活用しましょう。
相手を受け入れる姿勢で接する
認知症になると、自分の感情を上手く言葉で表現することができなくなることがあります。そういった状態がストレスとなり、暴言・大声を出す・興奮するといったことも少なくありません。認知症の方がこのような状態になっても、できるだけ相手の感情に寄り添い、受け入れる姿勢で接するようにしましょう。興奮が強い場合は話題を変えたり、そっと見守るなど配慮も必要になります。

認知症の方と接する際のNG行為は?

認知症の方と接する際のNG行為について解説します。

相手を無視したり放置したりしない

認知症の方と接すると、同じ質問や会話を何度もされることがあるでしょう。そういった場面で、つい無視をしたり放置をしてしまったり、ということはありませんか?そのような対応は、孤独感を感じさせてしまい、ストレスの大きな原因となります。

細かい指示や命令をする

認知症になり日常生活に支障が出始めると、これまで出来ていたことが上手く出来なくなることがあります。上手く出来ないからといって、細かい指示・指摘をしたり、命令をしたりしないようにしましょう。指示や命令の内容が理解できずに、かえって混乱させてしまうこともあります。

物忘れを指摘する

認知症の代表的な症状として記憶障害があります。よくあるのが、すでに食事を済ませているのに「まだご飯を食べていない」と言われるといったようなケースです。このような物忘れを強く指摘すると、本人は自分の記憶は正しいと思っているので、「(相手のほうが)嘘をついている」「私のことが嫌いなのかも」と感じ、孤独感や怒りを覚えてしまうことも。物忘れを指摘するのではなく、できるだけ相手の発言に話を合わせてあげるようにしてください。

頭ごなしに叱ったり否定したりする

理解できない行動・言動があったとしても、本人は理由や目的があってそうしています。理解できない行動・言動があっても、頭ごなしに叱ったり否定したりすると、戸惑って混乱したりストレスを感じてしまいます。叱る・否定するのではなく、相手を受け入れる姿勢で接するようにしましょう。

外出させず家に閉じ込めてしまう

突然の外出や深夜徘徊といった症状が出てくると、リスク管理のためになるべく外に出ないようにしたくなることもあるでしょう。ただし、外出をさせずに家に閉じ込めてしまうと、よけいに家から出ようとしたり、「家に閉じ込められた」という恐怖からさらなる徘徊につながってしまうこともあります。

シーン別に解説!認知症の方への接し方のポイント

ここからは、認知症の方によくあるシーン別に接し方のポイントを解説します。

食事でよくあるトラブルと接し方

食事でよくあるトラブルと接し方について解説します。

食事の手づかみ
手づかみで食事を食べてしまうのは、認知症の症状によって箸を使えない・食べ物を認識できない・などの理由が考えられます。「箸を持ってもらってから配膳する」「箸が難しい場合はスプーンなどを用意する」「食事に集中できるように周囲に物を置かない」など、配膳の仕方や食事に集中できる環境を準備しましょう。
異食
食べ物ではないものを食べる行為を異食といいます。ビニール袋を飲み込んで窒息してしまったり、洗剤を飲んで中毒を起こしたり、非常に危険な行動です。異食を防ぐためには、「食べ物と間違いそうなもの(丸いもの・カラフルなもの一口サイズのもの)を本人の近くに置かない」「おやつを配って空腹感を抑える」「食べ物を食べる状況とそれ以外の区別をはっきりさせる」といった対処方法が効果的です。

生活習慣でよくあるトラブルと接し方

生活習慣でよくあるトラブルと接し方について解説します。

昼夜逆転
認知症が進行すると、見当識障害があらわれ昼と夜の違いなどが理解できなくなります。これにより昼夜逆転が発生し、夜中の深夜徘徊などの行動につながることがあります。昼夜逆転を予防するためには「昼間の活動量を増やして夜に眠くなるようにする」「スムーズに入眠できるように睡眠環境を整える」といった対処方法が効果的です。
被害妄想
「誰かが自分の悪口を言っている」「物を盗まれた」などの被害妄想も認知症の代表的な症状です。このような症状が出ている際には、内容自体には意味がなく単に共感してほしい・話を聞いてほしい・何かに不安を感じているということがほとんどです。話の内容を否定するのではなく、本人の主張に耳を傾けてあげるようにしましょう。
頻繁に電話をかけてくる
認知症の方が一人暮らしで、近くにすぐに会話ができる人がいない場合、家族に電話を頻繁にかけてしまうことがよくあります。昼夜を問わず電話をかけてしまうこともあり、家族には非常に大きなストレスがかかります。対処方法としては「電話ができる時間を限定して、本人に伝える」「定期的に家族から電話をかけるようにする」「電話の内容をないがしろにせずしっかり話を聞く」などがあります。

その他のよくあるトラブルと接し方

認知症の方によくある、その他のトラブルと接し方について解説します。

病院に行きたがらない
家族が「もしかしたら認知症かも」と感じても、本人が嫌がって病院に行きたがらないことがあります。無理に連れていくと、尊厳を傷つけてしまい関係の悪化につながることもあります。どうしても病院で診断を受けさせたい場合は、「健康診断を利用する」「他の人の話を持ち出して促す」といった方法があります。
収集癖
認知症になると何かしら特定のものを収集しはじめることがあります。対象は石であったり紙類であったり、さまざまです。収集癖は、孤独や不安の代償行為として出ることが多いため「不安や孤独が解消するように働きかける」といった対処方法の他、「行為自体を否定せずに、認めるようにする」「集めた満足感や成果がわかるように集めたものを整理する」などがあります。

まとめ

家族や身の回りの人が認知症になると、理解できない行動や言動があらわれ、コミュニケーションが上手く取れずストレスを感じることもあるでしょう。しかし、理解できない行動・言動の中には何かしらのメッセージや感情の裏返しが含まれていることがほとんどです。ネガティブな感情をぶつけたり、無視・放置をしたりするのではなく、今回ご紹介した内容を参考に相手を受け入れる姿勢でコミュニケーションを取るようにしてみてください。

監修者

介護福祉士
吉田 淳俊

株式会社ゆう&あい
元消防士、救急救命士。30歳で介護業界に転職し地元の社会福祉法人で10年ほど介護業務や管理業務を経験したのちに独立。現在は認知症グループホームを2棟経営し自らも管理者として日々認知症ケアに携わっている。

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